蛍光体

 当研究室ではアップコンバージョン(UC)蛍光体の作製条件を変化させ、高変換メカニズムの解明に取り組んでいる。以下に発光メカニズムと材料の説明を示す。

UC発光のメカニズム

 UCのプロセスにより、3価の希土類ランタノイドイオンをドーピングされた結晶は、近赤外域の長波長の電磁波を吸収し、可視光域の短波長の電磁波を放出する。UCプロセスは1960年代を通じて研究され、1966年にAuzelによって励起状態イオン間のエネルギー移動を介して起こることが報告された[1]。UC発光の代表的な2つのメカニズムをFig. 1に示す[2]。Fig. 1 (a)は励起状態吸収(ESA)と言われ、単一イオンによる2つ以上の光子の連続的な吸収によって発生する。吸収イオンの電子は、最初は基底状態の電子配置Gに配置されている。共鳴条件が満たされると1個の光子の吸収が起こり、電子が励起状態E1へ遷移する。この遷移は基底状態吸収(GSA)と呼ばれる。この励起状態は長寿命であるため、2番目の光子の吸収が可能となり、励起電子はさらに高い励起状態E2へ遷移する。Fig. 1 (b)はエネルギー移動アップコンバージョン(ETU)である。電子配置Gに存在する2つのイオンは、GSAによって最初の励起状態E1に励起される。増感剤のイオンから活性化剤のイオンへのエネルギー移動により、さらに高い励起状態E2に励起される。ETUはESAよりも高効率を実現できるため、ETUはUC材料の設計に広く導入されている。[2]。

Fig. 1 UC発光の代表的な2つのメカニズム (a) ESA (b) ETU [2]

[1] F. Auzel, Acad. Sci. Paris, C. R. 263, (1966) 819.
[2] M.V. DaCosta, S. Doughan, Y. Han, and U.J. Krull, Anal. Chim. Acta 832, (2014) 1.

ホスト材料とドーピング材料

 UC蛍光体のホスト材料として、フォノンエネルギーの低さからフッ化物が注目されている。一般的に、NaYF4がホスト材料として頻繁に研究されているが、本研究グループではLaF3をホスト材料として採用している。LaF3はイオン半径と原子価が希土類と類似しているため、希土類イオンをドーピングしても、結晶格子に歪みが誘発されにくい特徴がある[3]。LaF3の結晶構造をFig. 2に示す[4]。また、UC蛍光体のドーピング材料の組み合わせとして、Yb-ErやYb-Tmが頻繁に報告されているが、本研究グループではYb-Hoの組み合わせも採用している。Fig. 3のように、Hoを用いることで緑色(5F4, 5S25I8)および赤色(5F55I8)の発光を得ることができる。 本研究グループは、過去にLaOFのUC蛍光体を合成し、光学特性の解析結果を報告した[5, 6]。しかしながら、LaOFはLaF3に比べてフォトルミネッセンス(PL)強度が低く、実用化への課題が示唆された。そこで、LaF3を主なホスト材料とすることでPL強度を上昇させ、高変換メカニズムを考察している。

Fig. 2 LaF3の結晶構造[4]
Fig. 3 Yb3+とHo3+のエネルギーバンド図

[3] X. Cheng, X. Ma, H. Zhang, Y. Ren, and K. Zhu, Physica B Condens. Matter 521, (2017) 270.
[4] K. Momma and f. Izumi, J. Appl. Cryst. 44, (2011) 1272.
[5] S.-I. Yamamoto, K. Ohyama, T. Ban, and T. Nonaka, Mater. Res. Express. 6, (2018) 036202.
[6] T. Nonaka, T. Sugiura, T. Tsukamoto, and S.-I. Yamamoto, J. Korean Ceram. Soc. 59, (2022) 889.

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