当研究室では、アゲハチョウの構造色について研究している。構造色のメカニズムとナミアゲハの説明を以下に示す。
構造色のメカニズム
構造色とは、精巧な構造体が強い光を広い角度で反射したり、逆に光を反射させないようにしたりすることである。これらの機能は、光と構造物の複雑な相互作用がもたらす結果であり、空間的不均一性と相互作用する光の物理的作用に基づくものである。したがって、本質的に光エネルギーの損失を伴うものではない。この意味で、反射、屈折、干渉、回折、散乱といった基本的な光学的プロセスは、構造的な色の源になり得る。一般に、構造色のメカニズムは、薄膜干渉、多層膜干渉、回折格子、フォトニック結晶などの光学現象に分類され、それらの光学現象はFig. 1のような構造によって生じる。そして、タマムシやモルフォ蝶のような自然界に現れる構造色は、上記の光学現象を組み合わせて発色を高める機構を有している[1]。
[1] S. Kinoshita, S. Yoshioka, and J. Miyazaki, Rep. Prog. Phys. 71, (2008) 076401.
ナミアゲハについて
ナミアゲハは、チョウ目アゲハチョウ科に分類されるチョウの1種であり、中国や日本などに生息している。ナミアゲハの標本写真をFig. 2に示す。ナミアゲハは、目に関する研究が多く報告されている。ナミアゲハは色覚を有しており、照明の色によらず目的の色を見分けることができる[2]。また、複眼は6種類の異なるスペクトル受容体(紫外線、紫、青、緑、赤、広帯域)が備わっており、9個の視細胞を含む多数の個眼から構成されている[3]。
ナミアゲハ以外の蝶では、羽の発色についての報告があるものの、ナミアゲハの羽の光学特性に関する報告例は少ない。そこで本研究グループでは、ナミアゲハの羽の光学特性を解析することを目的として研究を行っている。2015年のStavenga et al.の報告によると、ナミアゲハの青色の鱗は色素を含んでおらず、多層膜と微細な構造により青色が作り出されている[4]。したがって、青色の鱗などで透過型の回折パターンが生み出されると想定されるため、光学特性を解析するアプローチとして透過型の回折実験を実施している[5]。
[2] M. Kinoshita, N. Shimada, and K. Arikawa, J. Exp. Biol. 202, (1999) 95.
[3] K. Arikawa, D.G.W. Scholten, M. Kinoshita, D.G. Stavenga, Zool. Sci. 16, (1999) 17.
[4] D.G. Stavenga, A. Matsushita, and K. Arikawa, Zoological Lett. 1, (2015) 14.
[5] T. Nonaka, S. Hamano, A. Sugiyama, T. Imai, T. Kitawaki, and S.-I. Yamamoto, Brazilian J. Phys. 53, (2023) 69.